ストレッチしても戻るのはなぜ?相対的柔軟性を医師が解説【長野市】

「毎日ストレッチしているのに、前屈が変わらない」「マッサージやストレッチで楽になるのに、数日で戻る」——外来でよく聞くお悩みです。
その理由のひとつに、リハビリテーションの世界で相対的柔軟性と呼ばれる考え方があります。結論から言うと、体は「かたい場所」ではなく「動きやすい場所」から先に動くため、かたい筋肉だけを伸ばしても、動きの偏りが残ることがあるのです。
体は「動きやすいところ」から動く
前屈を例にします。ももの裏(ハムストリングス)がかたい人が床に手を伸ばすと、股関節があまり曲がらないぶん、隣にある腰(腰椎)が代わりに大きく丸まります。体にかかる同じ力は、抵抗の少ない場所に流れるからです。

この「ある部位が、隣の部位より先に・大きく動きやすい関係」を相対的柔軟性と呼びます。大事なのは、これは全身が柔らかい・かたいという話ではなく、部位どうしの相対的な関係だという点です。

- ももの裏がかたい → 前屈のたびに腰が余計に丸まる
- ももの前がかたい → うつ伏せで膝を曲げるたびに骨盤が前へ倒れ、腰が反る
- 胸椎(背中)がかたい → 振り向くたびに首や腰がねじれを肩代わりする
同じ動作を1日に何百回も繰り返すうちに、よく動く側の組織にばかり負担が集まる——これが、ストレッチだけでは痛みが戻りやすい一因と考えられています。
ストレッチだけでは足りない理由
かたい筋肉(例:ハムストリングス)の柔軟性が改善しても、「腰のほうが動きやすい」という関係が変わらなければ、前屈のたびに腰から動くパターンは残り得ます。だから運動療法では、3つをセットで考えます。
- 伸ばす:本当に伸張性が足りない筋肉には、症状を増やさない範囲でストレッチを行う
- 支える:動きすぎる部位(例:腰・骨盤)を、適切な筋収縮で「その動作の間だけ」支える
- 動きを学ぶ:支えたまま目的の関節(例:股関節・膝)を動かす練習を繰り返し、体に新しい順番を覚えさせる
「支える」はぎゅっと固めることではありません。息を止めるほど強く固めるのは逆効果で、呼吸ができる程度の軽い収縮で、その動作の間だけ支えられれば十分です。
研究は何を示しているか
- 腰の動かし方の問題(運動制御障害)を伴う慢性腰痛では、体幹筋の活動練習と動作のコントロール練習が2021年の米国理学療法ガイドラインで推奨されています
- 慢性腰痛の149人を対象としたランダム化比較試験では、日常の動作そのものを練習する訓練が、筋力・柔軟性の運動よりも生活の障害度を改善しました(JAMA Neurology 2021)
- ハムストリングスがかたい人の座位膝伸ばしで、腰と骨盤を中間の位置に保つと、腰の代償的な動きが減ることも実験で確認されています
一方で、正直にお伝えすると——「どの部位がどれだけ動きやすいか」を見た目だけで断定することはできませんし、すべての痛みがこの仕組みで説明できるわけでもありません。だからこそ、評価をしてから運動を選ぶことに意味があります。
自宅でできる例:腰を保ってもも裏を伸ばす
ハムストリングスのストレッチを例に、「伸ばす+支える」を組み合わせた方法です。

- 安定した椅子のやや前方に座り、両膝を曲げて足を床につけます
- 骨盤を起こし、腰の自然なカーブを軽く保ちます(坐骨の上に座る感覚)
- 腰の形を保ったまま、片方の踵を低い足台にのせ、ももの裏に軽い張りが出るところまで膝を伸ばします
- 腰が丸まり始めたら、そこで止めます。膝は曲がっていて構いません
合図は「腰の形を保てるところまで膝を伸ばす」。膝がどこまで伸びたかではなく、腰が動かずにいられたかを成功の基準にしてください。
こんなときは自己流より受診を
- ストレッチやマッサージを続けても痛みが悪化する、2週間以上よくならない
- 脚のしびれ・力の入りにくさを伴う
- 夜間や安静時にも痛む、発熱を伴う
これらは筋肉の柔軟性以外の原因(神経の圧迫・関節や骨の問題など)が隠れていることがあります。当院ではレントゲンと診察で原因を確認し、自宅でできる運動療法の指導や、筋膜のかたさにはハイドロリリース(筋膜リリース注射)も行っています。
また、「支える+動きを学ぶ」練習をマンツーマンで続けたい方には、同じ建物の2階にあるStudio NEXTEで、当院の整形外科専門医が監修するピラティスもご案内できます(症状に合わせた運動プログラム)。
よくある質問
Q1. ストレッチは無意味なのですか?
いいえ。本当に伸張性が足りない筋肉への、痛みを増やさない範囲のストレッチには意味があります。この記事の主旨は「ストレッチだけで動きの偏りまでは変わらないことがある」です。
Q2. 体がやわらかい人は腰痛にならないのですか?
そうとは言えません。相対的柔軟性は全身のやわらかさではなく部位どうしの関係の話で、よく動く部位に負担が集まることはやわらかい人にも起こります。
Q3. 「体幹を固めればよい」ということですか?
違います。常に固めると動作がぎこちなくなり、息を止めるクセや別の痛みにつながることがあります。目標は「その動作の間だけ、必要な分だけ支える」ことです。
Q4. 何回くらいで動きの癖は変わりますか?
研究では数週間〜数か月単位のプログラムが用いられています。1回で変わるものではなく、日常動作で繰り返すことが前提です。※経過には個人差があります。
Q5. どこを支えてどこを動かすかは、自分で判断できますか?
目安として「ストレッチ中にいつも同じ場所(腰など)が先に動く・張る」なら偏りのサインですが、見た目だけで断定はできません。痛みがある場合は、診察で確認してから運動を選ぶことをおすすめします。
まとめ
- 体は「かたい場所」ではなく「動きやすい場所」から先に動く(相対的柔軟性)
- かたい筋肉を伸ばすだけでは、動きの偏りが残ることがある
- 「伸ばす」「支える」「動きを学ぶ」をセットで。合言葉は動かす場所を動かすために、支える場所を支える
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参考文献
- Sahrmann S, et al. Diagnosis and treatment of movement system impairment syndromes. Braz J Phys Ther. 2017;21:391-399.
- George SZ, et al. Interventions for the Management of Acute and Chronic Low Back Pain: Revision 2021. J Orthop Sports Phys Ther. 2021;51:CPG1-CPG60.(米国理学療法士協会 診療ガイドライン)
- Van Dillen LR, et al. Effect of Motor Skill Training in Functional Activities vs Strength and Flexibility Exercise on Function in People With Chronic Low Back Pain: A Randomized Clinical Trial. JAMA Neurol. 2021;78:385-395. PMID: 33369625
- Park KN, et al. Effects of Lumbopelvic Neutralization on the Electromyographic Activity, Lumbopelvic and Knee Motion during Seated Knee Extension in Subjects with Hamstring Shortness. J Phys Ther Sci. 2012;24:17-22.
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最終更新日:2026年10月28日
この記事は診断を目的としたものではありません。症状については医療機関にご相談ください。
