大腿骨骨折の約8割は転倒が原因|今日からできる転倒予防【医師監修】

室内でふらついてバランスを崩す高齢女性のイラスト(転倒予防のイメージ)

「最近、何もないところでつまずく」「親が転んで骨折しないか心配」——そんな不安はありませんか。整形外科の外来では、たった一度の転倒で大腿骨を骨折し、そのまま歩けなくなってしまう方を数多く診てきました。

この記事では、大腿骨骨折の原因のデータと、転倒のいちばんの危険因子である「筋力低下」、そして今日から始められる転倒予防の方法を解説します。読み終わる頃には、何をすれば転倒を防げるかがわかります。

目次

この記事の要点

  • 大腿骨の付け根の骨折(大腿骨近位部骨折)の約8割は「立った高さからの転倒」で起こる(全国調査)※2
  • 「骨折・転倒」は介護が必要になる原因の第3位(13.9%)※1
  • 転倒の危険因子の中でも筋力低下は特に影響が大きく、転倒リスクは約4.4倍※3
  • 転倒予防に有効性が最も確かめられているのは「運動」。体幹と足腰の筋力・バランスを鍛える
  • 骨粗しょう症の検査・治療を組み合わせると「転んでも折れにくい」備えになる

大腿骨の骨折はなぜ怖いのですか?

歩行に直結する骨折で、介護が必要になる主要な原因だからです。厚生労働省の2022(令和4)年国民生活基礎調査では、介護が必要になった原因の第3位が「骨折・転倒」(13.9%)でした(1位は認知症、2位は脳血管疾患)※1。

大腿骨近位部骨折(脚の付け根の骨折)は、そのなかでも代表的な骨折です。多くの場合手術が必要になり、入院・リハビリを経ても、骨折前と同じように歩けなくなる方が少なくありません。

大腿骨骨折のどれくらいが転倒で起こりますか?

約8割が「立った高さからの転倒」で起こります。厚生労働科学研究の全国調査(日本整形外科学会認定研修施設などを対象)では、大腿骨近位部骨折の受傷原因のうち、立った高さからの転倒が約80%と最も多く、90歳以上では約90%に達していました※2。

交通事故や高いところからの転落ではなく、「室内でちょっとよろけた」「玄関でつまずいた」という日常の転倒がほとんどです。骨粗しょう症で骨がもろくなっていると、その程度の衝撃でも折れてしまいます。これを「脆弱性骨折(ぜいじゃくせいこっせつ)」と呼びます。

つまり、大腿骨骨折を防ぐ入り口は「転ばないこと」です。

なぜ転ぶのですか?——最大の危険因子は筋力低下

転倒の危険因子を集計した研究のレビュー(Rubensteinら)では、筋力低下がある人は、ない人に比べて転倒リスクが約4.4倍と報告されています※3。バランス障害・歩行障害・視力低下・薬の影響なども危険因子ですが、筋力低下は特に影響が大きい因子です。

筋力は何もしなければ年齢とともに落ちていきます。特に、

  • 太もも・お尻の筋肉(立つ・歩くを支える)
  • 体幹の筋肉(よろけたときに立て直す)

が弱ると、「つまずいた後に踏ん張れない」状態になります。「転びやすくなった」は、多くの場合「踏ん張れなくなった」のサインです。

転倒を予防するにはどうすればいいですか?

有効性が最も確かめられているのは運動です。転倒予防の研究では、下肢の筋力トレーニングとバランス訓練を組み合わせた運動が中心的な対策とされています。あわせて環境の整備と骨の治療を行うと、より確実です。

1. 体幹と足腰を鍛える運動

  • スクワットや片脚立ち(ロコモーショントレーニング)
  • バランス訓練(不安定な姿勢で立て直す練習)
  • 体幹(お腹まわり・背中)のトレーニング

ピラティスのような体幹と下肢を同時に使う運動も選択肢の一つです。高齢者を対象としたランダム化比較試験のメタアナリシスでは、ピラティスによりバランス能力が改善し(20研究のレビュー)※4、別のレビュー(12研究・702名)では移動能力の改善と転倒への恐怖感の低下が報告されています※5。なお、転倒の回数そのものを減らせるかについては、まだ質の高い研究が十分でなく、研究が続いている段階です。

ご自宅でできる運動は「在宅でできる運動療法」でも紹介しています。

2. 環境を整える

  • 床の段差・電気コード・マットなど、つまずくものを片付ける
  • 夜間のトイレまでの通路に照明をつける
  • 滑りにくい履き物を選ぶ

3. 骨粗しょう症の検査・治療で「折れにくい骨」に

転倒予防と同時に、骨密度を調べて必要なら治療を始めることで、「転んでも折れにくい」備えができます。特に女性は閉経後に骨密度が急に低下します。詳しくは「骨粗しょう症」のページをご覧ください。

上野医院でできること

長野市の上野医院では、整形外科の保険診療として次の対応を行っています。

また、運動を安全に続けたい方には、当院の医師が監修する提携スタジオでの症状に合わせた運動プログラム×マシンピラティスをご案内しています。マシンで負荷を細かく調整できるため、運動に自信のない方や膝・腰に不安のある方でも始めやすいのが特長です。

よくある質問

Q1. 転倒予防の運動は何歳から始めても効果がありますか?

高齢の方を対象にした研究でも筋力・バランスの改善が確認されており、始めるのに遅すぎることはありません。体力に合わせて負荷を調整することが大切です。

Q2. 一度転んでしまいました。受診したほうがいいですか?

脚の付け根や手首に痛みが残る場合、体重をかけると痛い場合は、骨折の可能性があるため早めに整形外科を受診してください。痛みがなくても、転倒を繰り返す場合は原因の評価をおすすめします。

Q3. 骨密度の検査は保険がききますか?

医師が必要と判断した場合は保険診療で受けられます。閉経後の女性や、ご家族に大腿骨骨折の方がいる場合は一度ご相談ください。

Q4. ウォーキングだけでは転倒予防に不十分ですか?

ウォーキングは大切な運動ですが、転倒予防の研究で中心となっているのは筋力トレーニングとバランス訓練です。歩くことに加えて、スクワットや片脚立ちのような運動を組み合わせることをおすすめします。

Q5. 家族が高齢で転倒が心配です。何から始めればいいですか?

まず住まいの段差・コード類の整理と夜間照明の設置から始めてください。そのうえで、骨密度の検査と、無理のない範囲の運動(椅子からの立ち上がり運動など)をご相談ください。

まとめ|「転ばない体」と「折れにくい骨」の両方を

大腿骨骨折の約8割は日常の転倒から起こり、その転倒の背景には筋力低下があります。体幹と足腰を鍛える運動で「転ばない体」を、骨粗しょう症の検査・治療で「折れにくい骨」をつくることが、介護を防ぐいちばんの近道です。

「最近つまずきやすい」と感じたら、お気軽にご相談ください。

上野医院(長野市三輪)
お電話でのご相談・ご予約: 026-232-2861(整形外科)
LINE・WEB予約もご利用いただけます。

関連ページ

この記事の監修
医療法人一樹会 上野医院 院長・上野正樹(日本整形外科学会認定 整形外科専門医)

参考文献

※1 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」: https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/14.pdf
※2 厚生労働科学研究「大腿骨頚部骨折の発生頻度および受傷状況に関する全国調査」: https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/4143
※3 Rubenstein LZ. Falls in older people: epidemiology, risk factors and strategies for prevention. Age Ageing. 2006: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16926202/
※4 Sampaio T, et al. Healthcare (Basel). 2023: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10706653/
※5 da Silva LD, et al. Front Med. 2021: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8440877/

最終更新日: 2026年9月3日

目次